相続放棄しても「管理義務」は残る?相続放棄と相続財産の管理について解説
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記事監修者 : 茨木あさひ法律事務所
代表弁護士谷井 光
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弁護士登録後、都内の総合法律事務所で経験を積み、茨木あさひ法律事務所を創業。相続、交通事故、労働問題が得意分野。趣味は、ゴルフ、サウナ。立命館大学経営学部卒業、神戸大学法科大学院修了。
保有資格
・弁護士(大阪弁護士会所属:登録番号62348)
・宅地建物取引士
「遺産の中に取得を希望しない不動産あり、関わりたくないので相続放棄をしたい」
そう考えて相続放棄を検討される方も多いかと思いますが、実は相続放棄をしても、その財産の管理義務(保存義務)を負わされる場合があることをご存知でしょうか?
かつては法律の内容が曖昧で、相続放棄した後もいつまでも管理責任を問われるリスクがありましたが、令和5年(2023年)4月に施行された民法改正により、そのルールが明確化されました。
今回は、相続放棄後の「管理義務(保存義務)」について、改正法のポイントや義務を免れる方法について解説します。
民法改正で何が変わった?「現に占有」がキーワード
改正前民法940条1項は、相続放棄をした場合の相続財産の管理について次のように定めていました。
「相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。」
改正前民法940条1項では、法定相続人の全員が相続の放棄をし、次順位の相続人が存在しない場合や、相続放棄者が相続財産を占有していない場合、相続放棄者が管理継続義務を負うかどうかや、その義務の内容は必ずしも明らかではありませんでした。
しかし、改正民法第940条1項では、責任を負う条件が以下のように限定されました。
「その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているとき」
つまり、相続放棄をした時点で、その財産を事実上支配・管理していた人(例:実家に同居していた人など)だけが、引き続き保存義務を負うことになります。
逆に言えば、遠方に住んでいて管理に一切関与していなかった相続人は、相続放棄をすれば管理義務を負うことはありません。これは非常に大きな変更点であり、放棄を検討する人にとっては朗報と言えるでしょう。
「管理義務」から「保存義務」へ
改正に伴い、義務の名称も「管理義務」から「保存義務」へと変更されました。
言葉は変わりましたが、求められる内容は実質的に以前とほとんど変わりません。「自己の財産におけるのと同一の注意」をもって、財産を滅失させたり損傷させたりしないように維持することが求められます。
保存義務はいつまで続く?
保存義務を負うことになった場合、その責任はいつまで続くのでしょうか。 改正法では、以下のいずれかの相手に「財産を引き渡すまで」と明記されました。
- 次の相続人(放棄していない他の親族など)
- 相続財産清算人(家庭裁判所に選任された管理者)
次の順位の相続人が管理を引き継いでくれると義務は終わりますが、「全員が相続放棄をして次がいない」というケースが最も問題になります。この場合、自分だけで義務を終了させることができず、後述する手続きが必要になります。
義務を完全に免れるための「相続財産清算人」
全員が相続放棄をし、誰も管理する人がいなくなった場合、最終的に保存義務から解放されるためには、家庭裁判所に申立てを行い、「相続財産清算人」を選任してもらう必要があります。
相続財産清算人は、故人の財産を整理・換価し、債権者への支払いや国庫への帰属手続きを行う人です。この清算人に財産を引き渡すことで、ようやく放棄した人の保存義務は消滅します。
ただし、申立てには数十万円〜100万円程度の「予納金」が必要になるケースもあり、費用面でのハードルがある点には注意が必要です。
まとめ
相続放棄は「負債を背負わない」ための有効な手段ですが、不動産などの保存義務が必ず消えるわけではありません。
- 自分が「現に占有」しているか?
- 次の相続人はいるか?
- 相続財産清算人の選任が必要か?
これらを正しく判断するためには、専門的な知識が必要です。特に不動産が絡む相続放棄については、トラブルを未然に防ぐためにも、弁護士に早めに相談することをおすすめします。
当事務所では、相続放棄を含む遺産相続について全面的なサポートが可能です。
遺産の分け方で揉めてしまったり、相続放棄の期限が迫っていたりと、少しでもご不安な点がございましたら、お早めにご相談ください。
専門家として、皆様の状況に合わせた解決策をご提案いたします。
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記事監修者 : 茨木あさひ法律事務所
代表弁護士谷井 光
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弁護士登録後、都内の総合法律事務所で経験を積み、茨木あさひ法律事務所を創業。相続、交通事故、労働問題が得意分野。趣味は、ゴルフ、サウナ。立命館大学経営学部卒業、神戸大学法科大学院修了。
保有資格・弁護士(大阪弁護士会所属:登録番号62348)
・宅地建物取引士