茨木市の弁護士 相続・離婚・交通事故・会社顧問の法律相談

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令和6年民法改正で養育費はどう変わる? 「法定養育費制度」について解説

離婚・男女問題

弁護士登録後、都内の総合法律事務所で経験を積み、茨木あさひ法律事務所を創業。相続、交通事故、労働問題が得意分野。趣味は、ゴルフ、サウナ。立命館大学経営学部卒業、神戸大学法科大学院修了。

保有資格
・弁護士(大阪弁護士会所属:登録番号62348)
・宅地建物取引士

2024年(令和6年)5月の民法改正により導入された「法定養育費制度」は、離婚後の子どもの養育に関わる制度を大きく変えるものです。特に、これまで多くのひとり親家庭を悩ませてきた養育費の未払い問題に対し、大きな一歩となる新制度になるでしょう。

このコラムでは、令和6年民法改正のうち、養育費に関する二つの重要な柱「法定養育費制度」と「一般先取特権」について、その概要を解説します。

令和6年改正民法の施行日は令和8年4月1日であり、本コラム執筆時点(令和7年11月9日時点)ではまだ施行されておりませんので、ご留意ください。

「法定養育費制度」とは

改正民法によって新たに導入される「法定養育費制度」は、離婚時に養育費の取り決めをしなかった場合でも、法律に基づいて一定額の養育費を請求できるようにする制度です。

制度導入の背景と目的

これまでの制度では、養育費を受け取るためには、父母間の協議(話し合い)や家庭裁判所での調停・審判などを経て、金額や支払方法を取り決める必要がありました。しかし、厚生労働省の調査(令和3年度全国ひとり親世帯等調査)でも、養育費の取り決めをしていない母子家庭が半数以上に上るなど、養育費を受け取れない世帯が多いという深刻な実態がありました。

この制度は、取り決めができなかったために養育費を断念せざるを得なかった親子の生活を守ることを目的としています。

なお、法定養育費制度が適用されるのは、令和8年4月1日以降に離婚した場合に限られます。

法定養育費を請求できるケース(要件)

法定養育費は、父母が養育費の取り決めをせずに離婚をした場合に請求することができます。
話し合い(協議)によって離婚したか、裁判で離婚したかは問われません。

ただし、義務者が支払能力の欠如又は支払により生活が著しく窮迫することを証明したときはその全部又は一部の支払を拒むことができるとされています。

法定養育費は誰が請求できるのか

法定養育費を請求できるのは、子どもの父母の一方で、離婚時から引き続き子どもの世話を主として行っている人です。

法定養育費はいつから請求できるのか

法定養育費は、離婚の日から請求することができます。

また、法定養育費は、離婚の日にさかのぼって請求することも可能です。
たとえば、離婚成立の2年後に「法定養育費を請求したい」と考えた際は、その時点で2年分をまとめて支払うよう求めることができます。

法定養育費はいつまで請求できるのか

法定養育費は、次のいずれか早い日まで請求することができます。

  1. 協議によって養育費の取り決めをした日
  2. 養育費の審判が確定した日
  3. 子どもが成年(満18歳)に達した日

法定養育費はいくら請求できるのか

法定養育費として請求できる金額は、子どもの最低限の生活を維持するために必要な標準的な費用を基準に算出されます。具体的な額は、子どもの人数などを考慮し、法務省令で定められた基準に基づいて決められます。

本コラム執筆時点(令和7年11月9日時点)では法務省令はまだ公表されておらず、今後整備される予定です。

未払い養育費の回収を強化する「一般先取特権」の付与

養育費の支払い義務を負う者が、正当な理由なく支払いを滞らせるケースも大きな問題です。今回の改正では、未払い養育費を迅速に回収するための強力な手段が導入されます。

それは、養育費債権(法定養育費に限られません)に、一般先取特権(債務者のすべての財産から、他の債権者に優先して弁済を受けることができる権利)が付与されることです。

従来、給与などの財産を差し押さえる「強制執行」を行うには、裁判所の確定判決や調停調書といった「債務名義」が必要でしたが、養育費債権に一般先取特権が付与されたことにより、この債務名義なくして強制執行が可能となりました。

これにより、養育費未払いが発生した際に、煩雑な調停や審判を経ることなく、相手の財産(預貯金や給与など)を差し押さえる手続きにスムーズに移行できるようになり、養育費回収の実効性が大幅に高まると期待されています。

ただし、養育費債権の全額に一般先取特権が付与されるわけではなく、養育費債権のうち、子の監護に要する費用として相当な額として法務省令で定める額(法務省令案は一人月額8万円)が限度となります。

また、一般先取特権が付与されるのは、令和8年4月1日以降に発生する養育費債権に限られます。

まとめ

法定養育費制度や一般先取特権の導入は、養育費の安定的な確保に向けた大きな前進です。しかし、法定養育費はあくまで「最低限の生活を維持するための費用」を基準とするものです。

子どもの健全な成長や将来の教育(大学進学など)を見据えた場合、法定額では不十分となる可能性が高いでしょう。

したがって、新制度が導入された後も、父母は子どもの生活水準や教育環境を考慮し、協議や家庭裁判所の手続きを通じて、家庭の実情に即した適正な養育費の額を取り決めることが重要であることは変わりません。

当事務所では、養育費を含む離婚・男女問題に関するご相談を随時受け付けております。お気軽にお問合せください。



弁護士登録後、都内の総合法律事務所で経験を積み、茨木あさひ法律事務所を創業。相続、交通事故、労働問題が得意分野。趣味は、ゴルフ、サウナ。立命館大学経営学部卒業、神戸大学法科大学院修了。

保有資格

・弁護士(大阪弁護士会所属:登録番号62348)

・宅地建物取引士